「建物に対する思いを大切にする。」
世間的には価値のないように見えるものでも、自分にとってはとても貴重なものだ。
そんな思い入れのあるものってありますよね。まさに住宅等の建物にはこの思いが当てはまると思います。
私個人にとっても、自分の実家がこれに当てはまります。
私の実家は父が設計施工で建てたものです。 残念ながら至る所に不具合が生じていました。
この建物もそろそろ寿命かなと思い、取り壊し建て直そうかと思いましたが、いざとなると取り壊すことができません。
様々な思い出が詰まっているからです。
大学卒業後、私は大手ゼネコンの地方勤務となり実家と離れて暮らすことになりました。その10年後、会社を辞め、実家を継ごうと父と相談し決断して、まもなく父は亡くなりました。社会に出て、少しは大人になって、父と会話ができなかったことを残念に思います。父が亡くなってみると、この建物が父の大きな遺産のように感じられます。
この建物を建てた時、父がどんな気持ちだったのか、想像すればするほどその思いは深まっていきます。何を勉強してこようとも、どんな素晴らしいデザインや機能でも、これに変わるものはありません。全てを取り壊す新築工事の対応では、この思いを残すことは出来ません。
しかしながら実家は昭和56年以前に古い建築基準法上のもと建てられた建物です。表面的には綺麗に出来ても耐震性に関しては古い基準のまま、言わば乗り越えられない寿命という事になってしまいます。
そこで新たに学び取り組んだのが木造住宅の耐震診断・耐震補強工事です。
実家の耐震補強工事が自分にとって非常に良い経験となりました。
大黒柱や床柱、面皮柱、無垢の階段踏板、階段の手すり、小屋裏の松丸太などなど材料1本1本に、それを選んだ父の思いが込められているように感じましたし、それら全てを廃棄する事は到底できないと感じました。
又この経験を通じて、亡き父と建築的な会話が出来たような感じがします。
今、耐震補強工事とフルリフォームを施した、この実家を事務所拠点にして営業を行っております。
建物に対する思いを大切にする。
思い出を大切にしながら、今後も末永くこの建物で、建築の技術を通じて皆様に貢献する事が出来ればと切に願っております。